Assisi

そのお寺には何度か足を運んだことがあった。母の生まれた街から近かったので、それがなんだか理解できる歳になる前にも家族で出かけたものだった。その大きなお寺は永平寺といい、曹洞宗という禅宗の総本山であることを知ったのは、随分後になってからだ。 アッシジというイタリアの丘の上の街を訪れたのは、10月とはいえ寒い日だった。
知識の中のその街は、聖人フランチェスコの街。清貧の思想を説き、イタリアでは第二のキリストとも言えるような存在なのだという。彼にゆかりのあるこの街は、都市の喧噪から逃れることのできる場所でもあった。

周囲を城壁で囲まれた街は散歩するのにちょうどよい大きさ。石畳の道を歩き、坂道を登り、ロッカ・マッジョーレへ辿りつく。

石造りのロッカ・マッジョーレの見晴らしのよい塔の上へ。

この街を訪れることがあれば、大聖堂や教会ばかりを見るのではなく、街の”てっぺん”まで登りつめてほしいと思う。

  街を歩きながら思い出したのは、遠く離れた福井の永平寺。自分の中のどこかで、フランチェスコ会の思想と、曹洞宗の思想とが結びついていたのかもしれない。ふたつの街に共通していたものは、ひんやりとした空気。
それとも、それはただ、アッシジへ来る日の朝にローマのホテルで偶然見たNHKの衛星放送の番組のせいだろうか。永平寺を訪ねるという内容の。  

Copyright (c) 2000 Kimichi All Rights Reserved