Firenze

広すぎる街は歩けない。バスやトラムに乗るのも楽しいけれど、自分が歩くペースというのが、街を見る時にはちょうどいい。だからフィレンツェを歩く。歩いて歩いて、街を知る。

雨上がりのフィレンツェ、日曜の午後。予定を繰り上げてフィレンツェに入ったのはいいが、日曜の午後じゃお店だってお休みだ。教会も美術館もお終いだから、散歩にでかけることにする。アルノ川沿いを歩いて、曲がって、迷って、狭い道を抜けると急に視界が開ける。サンタ・クローチェ広場だった。
夕日に染まるフィレンツェを眺めに丘をあがりミケランジェロ広場へ。その帰り、フィレンツェの生活を覗きたくてスーペルメルカートへと向かう。丘からアルノ川まで降りて、川沿いを歩くことにした。

いつも表通りから眺めていた建物の側面は、こんな顔だったのだろうか。
アルノ川沿いを歩く。橋をひとつ、ふたつ、みっつと越えていく。

白い陶器ばかりが並ぶショーウィンドー。ドラマで、女性たちがつくった会社が輸入したのはここの食器。ドラマに使われたココア用のポットをウインドーの真ん中に見つける。
でも、日曜の午後じゃ買い物もできない。

次にフィレンツェを訪れた時にまたここへ戻ってくるだろうか。
並んで歩いている彼の目は、街も景色も見ていない。彼の目に映るのは停めてある車。日本では見かけない車の前で立ち止まり、また、輸入されていない車種を見つけては指をさす。向こうから来る散歩中の老夫婦。おじいさんはときどき立ち止まり、車を指差してはおばあさんに話しかけている。あの人たちも、おんなじだ。

30年たっても、私たちはあんなふうに散歩しているだろうか。

アルノ川沿いを歩く。
橋をよっつ、いつつ、むっつと越えていく。

スーペルメルカートまではあと少し。
カメラを持ったひととは、もうすれ違わない。

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