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カストラート / Farinelli - Il castrato

18世紀、イタリア、ドイツ、イギリス、スペイン。 実在したカストラート、ファリネッリの人生の明と暗。

1722年、ナポリ。ボーイ・ソプラノのような高音を自在に転がすカストラート、ファリネッリの声に聴衆は陶酔していた。作曲家ヘンデルもまた、ファリネッリの力量を認め、彼に近づき始めていた。ドレスデン、ロンドンと講演を重ねるうちに彼の人気は高まり、オペラの成功は彼の出演に左右されるようにまでなる。国王も作曲家も男も女も、みながファリネッリに近づいてくるが、それは、彼の声が目的であった。ただひとりの理解者であるはずの兄、リッカルドも。1740年、マドリッド。ファリネッリは表舞台から消え、スペイン国王に仕えていた。

その驚異的な声を武器に手に入れた名声。みなからちやほやとされるが、虚しさは否めない。ヘンデルの「カストラートとは男でも女でもない。その声だけが君の存在を正当化しているのだ」ということばに愕然としてしまう。真実だからである。華やかな舞台に立ちながらも、彼の声に群がるひとびとの思惑に翻弄されたファリネッリはけして幸福ではないだろう。舞台を眺める側の人間には窺い知れぬことなのかもしれない。

凡庸な作曲家の兄と非凡なカストラート、ファリネッリ。兄の望んだものは富と名声であり、弟の望んだものは平凡な幸せ。非凡な者と平凡な者、皮肉なものである。

カストラートとは去勢された男性のオペラ歌手。 7,8才の頃に去勢され、少年のような高音の声を保つと同時に成人男性の肺活量を持つ。18世紀はこのようなカストラートの人気が高かった。

映画では、カウンターテナーのデレク・リー・レイギンとソプラノのエヴァ・マラス・ゴドレフスカの声をコンピュータで統合し、3オクターブ半に及ぶカストラートの声を作り出している。


ロケ地 / イタリア(どの都市かは不明)、スペイン、ドイツ


製作 / 1994 イタリア・フランス・ベルギー
監督 / ジェラール・コルビオ

キャスト / ファリネッリ(カルロ・ブロスキ) … ステファノ・ディオニジ
リッカルド(兄) … エンリコ・ロー・ヴェルソ
ヘンデル … ジェローン・クラッベ
マエストロ・ポルポラ …
オメロ・アントヌッティ
原作 / アンドレ・コルビオ 『カストラート』 新潮 文庫 斎藤敦子【訳】
媒体 / VIDEO,LD,
DVD
サウンドトラック / Farinelli, Il Castrato (Soundtrack) (アメリカ盤)
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家族の肖像 / Conversation piece

1970年代、ローマ。 18世紀の家族の肖像画を収集する年配の教授の平穏な生活に入りこんだ間借り人。そして彼らのために、一変する生活。

ローマに暮らす老教授の趣味は18世紀に流行した家族の肖像画のコレクション。コレクションに囲まれた部屋で孤独だが平穏な日々を送っていた。そこへ、空いている屋敷の2階を借りたいという夫人が現れた。夫人の娘と婚約者、そして夫人の愛人が、教授の生活に入りこんでくる。最初は、厄介ごとを背負い込んだかのように感じていたが、肖像画ではない生きている彼らの存在は、徐々に家族のように感じられてきた。

アクシデントから、愛人のコンラッドには教養があることを知る。率直にものをいう現代っ子のリエッタにも好感を感じる。年老いた教授には理解しがたい言動がないわけではないが、それでも、彼らと関わりを持つことはけして嫌ではない。

おなかが空いたというリエッタのために、教授は彼らを台所へと案内する。台所の中でテーブルを囲み、パンやチーズを切り分けて一緒に食べる。ステーファノは、鍋の中のシチューを味見したがる。それは、肖像画を集めることで、ごまかしてきた教授の求めていた団欒だった。

教授に象徴される老いと孤独。それはそのまま、晩年のヴィスコンティ自身の姿と重なる。老いて、孤独と静寂の中で暮らすようになって、それをよしとしていても、やはり孤独な状態ばかりでは寂しさも募るのだろう。

教授が自戒するかのような回想シーン。「おじいちゃんは孤独じゃない。メイドもコックもいる」と母親にくちごたえする。そのことばが、自分につきつけられるようになった頃、初めてことばの持つ残酷さに気づくのかもしれない。


ロケ地 / ローマ

全編セットによる撮影。屋敷の2階から見えるローマの眺望もセットである。

* セット(遠景は写真ではないかと思われる)のモデルとなった風景について情報が寄せられました。

遠景に見える二つの聖堂は、サンタ・マリア・ディ・ロレート聖堂とサンティ・ルーカ・エ・マルティーナ聖堂のクーポラ であると思われます。このセット・デザインが実際のローマの景観や建築物の何を消去しているのか興味があります。(情報提供 : F.Kさん)


製作 / 1974 イタリア・フランス [英語作品]
監督 /
ルキノ・ヴィスコンティ

キャスト / 教授 … バート・ランカスター
コンラッド … ヘルムート・バーガー
ビアンカ …
シルヴァーナ・マンガノ
リエッタ … クラウディア・マルサーニ
ステファーノ … ステーファノ・パトリーツィ
教授の妻 … クラウディア・カルディナーレ (ノンクレジット)
教授の母 … ドミニク・サンダ (ノンクレジット)
媒体 / VIDEO,LD,DVD → ヴィスコンティ DVD-BOX 1
関連書籍 / 
L. ヴィスコンティ 『家族の肖像 ヴィスコンティ秀作集 5』新書館 ISBN: 4403040063 長谷川 匠【訳】

Gallery

 

イノセント 無修正版 デジタル・ニューマスター

 

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カラヴァッジオ / Caravaggio

16世紀末〜1610年、ローマ、ポルト・エルコレ。ルネッサンス・バロック期のアウトサイダー的な画家、カラヴァッジオ(本名:ミケランジェロ・メリージ)の生涯を回想とモノローグで綴る。

カラヴァッジオは、まだ少年であった頃からその絵の実力を認められ、数々の作品を製作する。成功の道を進む彼は、酒場で見かけたラヌッチオに心惹かれる。ラヌッチオとその恋人レナと親しくなるが、お互いの感情が少しずつすれ違い、溝となり、気がついた時、彼はラヌッチオの血に染まったナイフを握り締めていた。

教皇の庇護を受け製作を続けるカラヴァッジオの姿がその作品と共に淡々としたトーンで描かれる。奔放で激情のひとというイメージは感じられない。淡々とつづられるストーリーとともに画面に現われるカラヴァッジオの作品もチェックしたい。

1606年の殺人が原因で、ローマを追われる身となったカラヴァッジオ。ナポリ、マルタ、シチリアと渡り歩き、免罪を期待してローマへ戻る途中ポルト・エルコレで熱病のため死亡したという史実を知らずに見てしまうと、やや理解しにくい構成かもしれない。

だが、娼婦や貧民をモデルにして描いたり、男色の趣味があったりという、基本的な内容は史実に基づいてはいるものの、細部は創作。(実際に彼がローマから逃げるきっかけとなった殺人は、テニスでの得点争いが原因だとされている。)時代考証をあえて無視したかのような部分も見受けられる。

赤と黒、光と影。カラヴァッジオの絵画そのものであるかのようなコントラストのはっきりした映像が印象的。

カラヴァッジオの作風に影響を受けた画家も多い。アルテミシア・ジェンティレスキもその一人。

なお、作品中の絵画は以下の通り(出現順)それぞれ、以下の美術館で鑑賞することができる。
参考 :
Web Gallery of Art Caravaggio

  • メデューサ (1598-99) … ウフィッツィ美術館、フィレンツェ
  • 果物かご (1597) … アンブロジアーナ絵画館、ミラノ
  • 病めるバッカス (1593) … ボルゲーゼ美術館、ローマ
  • リュートを弾く少年 (1596) … エルミタージュ美術館、サンクト・ペテルブルグ
  • 音楽家たち (1595-96) … メトロポリタン美術館、ニューヨーク
  • 未確認 … 男性数名の立位の絵
  • 洗礼者ヨハネの斬首 … 聖ヨハネ准司教座聖堂併設の博物館、ヴァレッタ、マルタ
  • 勝利のキューピッド (1602-03) … 国立美術館絵画館、ベルリン
  • 洗礼者ヨハネ (1604) … ネルソンギャラリー、カンサス・シティ
  • マグダラのマリア (1596-97) … ドーリア・パンフィリ美術館、ローマ
  • 聖母の死 (1606) … ルーブル美術館、パリ
  • キリストの埋葬 (1602-03) … ヴァチカン美術館、ローマ

ロケ地 / 不明

舞台はカラヴァッジオが活動したローマと、彼の終焉の地、ポルト・エルコレ。ほとんどのシーンは屋内なので、セットによる撮影ではないかと思われる。


製作 / 1986 イギリス[英語作品]
監督 / デレク・ジャーマン

キャスト / カラヴァッジオ(ミケーレ) … ナイジェル・テリー
ラヌッチオ … ショーン・ビーン
エルサレム … スペンサー・レイ
レナ … ティルダ・スウィントン
媒体 / VIDEO,LD,DVD
サウンドトラック / カラヴァッジオ

関連書籍 / 画集「カラヴァッジオ―生涯と全作品

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から騒ぎ / Much ado about nothing

時代設定不明(16世紀頃か?)、メッシーナ。凱旋したアラゴン大公とその部隊が訪れた領主の館で繰り広げられる二つの恋物語のゆくえ。

戦いを終えたアラゴン大公、ドン・ペドロの部隊が訪れたのは、メッシーナのレオナートの館。部隊の中のクローディオはレオナートの娘、ヒーローに一目惚れしてしまう。一方、同じ部隊のベネディックとレオナートの姪のベアトリスは、会えば必ず皮肉たっぷりの会話が始まるが、実はお互いを意識する仲。この二組のカップルをなんとか結び付けようと周囲が画策するのだが、ドン・ペドロの腹違いの弟、ドン・ジョンがそれを邪魔しようと絡んでくる。それぞれの恋は成就するのだろうか。

ベネディックとベアトリスの英国流ユーモアたっぷりの会話は、できれば原語で味わいたいところ。シェークスピア原作の作品であるから、ストーリー運びは当然シェークスピア流。ロミオとジュリエットやオセロで見られたモチーフがこの作品でも散りばめられている。

笑いながらも最後にほろりとする佳品である。

冒頭の、大公の部隊を迎えるため支度をする女たちの様子を捉えたシーン、そして、エンディングのダンスのシーンなど、カメラワークも秀逸。

なお、ベアトリスを演じたエマ・トンプソンは、撮影当時、実生活でもケネス・ブラナー夫人であった。息がぴったりと合った会話も当然か?


ロケ地 / キァンティ

  • Villa Vignamaggio … レオナートの館

原作の舞台となったメッシーナはシチリアの都市であるが、本作品の撮影はトスカーナで行われ、メッシーナもトスカーナ内の都市として扱われているようである。

アラゴンの大公のアラゴンとは13世紀から16世紀の間南イタリア・シチリアを統治したナポリ王国のアラゴン家である。


製作 / 1993 イギリス [英語作品]
監督 / ケネス・ブラナー

キャスト / ベアトリス … エマ・トンプソン
ベネディック … ケネス・ブラナー
ドン・ペドロ … デンゼル・ワシントン
ドン・ジョン … キアヌ・リーブス
原作 / ウィリアム・シェークスピア 『から騒ぎ』 白水社  小田島雄志【訳】
媒体 / VIDEO, LD,
DVD
サウンドトラック / Much Ado About Nothing (アメリカ盤)
から騒ぎ

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奇跡の丘 / Il vangelo secondo Matteo

紀元前−30年代、エルサレム、エジプト、他。無神論者・パゾリーニが、キリストの生涯を新約聖書の「マタイの福音書」を元に映像化した作品。

マリアの懐妊に始まり、東方三博士の礼、ヘロデ王の嬰児大虐殺、パンと魚の奇跡の話、サロメが洗礼者ヨハネの首を所望した話、最後の晩餐、釈放されたバラバ、磔刑、そして復活と、絵画等の主題になるような内容はほとんど描写されているし、 「汝の隣人を愛せよ」というような、よく知られたキリストのことばも、作中に多数含まれている。

他のパゾリーニ作品に見られるような”毒気”はなく、敬虔なキリスト教信者の視点で描かれているといえるだろう。 飾り気のない映像も、キリストを語るにふさわしい。パゾリーニが無神論者であることを知らなければ、キリスト教信者によるキリスト教布教の為の作品にも思えるほどである。いったい、パゾリーニの意図はなんだったのか。

パゾリーニがアッシジ滞在中に時の法王、ヨハネ23世のアッシジ訪問に遭遇し、ホテルで街の喧騒を聞きつつ手にした聖書が、この映画製作のきっかけとなったらしい。しかし、「奇跡の丘」撮影前に発表したオムニバス映画「ロゴパグ」の第3話「リコッタ」で、キリストの磔刑映画のパロディーを描き、「宗教を侮辱した」かどで告訴された(判決は無罪であった)という経緯があったので、パゾリーニによるキリストの映画製作には反対も多かったという。

ところが、「奇跡の丘」が発表されると、国際カトリック映画事務局賞を受賞。ローマ法王庁がキリスト教徒に適した映画を選出する「ローマ法王のオスカー」と呼ばれるリストでも、「奇跡の丘」は上位に入っている。ヴァチカンのお墨付きになったわけである。

ただ一つ気になったのは、サロメ。その行動や、ビアズレイの絵画から想像するような女性ではなく、良く言えば清純そうな、しかし毒にも薬にもならぬような女性として描かれている。ヨハネの首を所望するまで、それとは気づかなかった。
→ サロメのイメージについて、ワイルド/ビアズレイ以前と以後では異なるということがわかった。聖書に書かれている記述では母親の指示に従って首を所望するだけの娘で、特に強いイメージを持って描かれているわけではない。パゾリーニの表現は聖書に忠実だったということになる。


ロケ地 / オルテ、カーヴォ山、ティヴォリ、ポテンツァ、マテーラ、サッシ・エ・リーネ・サン・アニェーゼ、バリーレ・マテーラ、バリーラ、ターラント、マッサフラ、クロトーネ、エトナ渓谷

  • オルテ近郊のキーア城 … キリストの洗礼
  • カーヴォ山 … 山上の垂訓
  • ティヴォリ … ゲッセマネの菜園、
  • ポテンツァ近郊 … ナザレ
  • マテーラ、 サッシ・エ・リーネ・サン・アニェーゼ … エルサレム
  • バリーレ・マテーラ … ベツレヘム
  • バリーラ近郊 … 嬰児虐殺
  • ターラント−バルレッタ間の田園地帯…布教の地
  • モンテ・バーリ城 … 法務官執務邸
  • ジョイア・デル・コッレ・バーリ城 … 神殿からの放逐、ヘロデ大王の王宮
  • マッサフラ … カフォルナオ
  • カタンツァーロ古城 … パンと魚の奇跡
  • クロトーネ近郊 … 布教の地、テベリア湖
  • エトナ渓谷 … 砂漠での誘惑

製作 / 1964 イタリア
監督 /
ピエル・パオロ・パゾリーニ

キャスト / イエス・キリスト … エンリケ・イラソキ
老いたマリア … スザンナ・パゾリーニ (パゾリーニの母)
媒体 / VIDEO,DVD 奇跡の丘 ニューマスター版[DVD]

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昨日・今日・明日 / Ieri, oggi, domani

1960年代、ナポリ、ミラノ、ローマ。 イタリアの3都市を舞台にしたオムニバス。男女を主人公に、それぞれの街の気質を描く。

[ナポリ] 失業中の夫と、幼子を抱えて働くアデリーナの仕事は闇タバコの販売。妊娠中及び産後6ヵ月は刑務所行きを免れるとわかると、彼女は妊娠をくりかえす。だが、カルミーネの体がもたなくなり……。

[ミラノ] 大企業の社長を夫にもつアンナは、毎日の生活に退屈していた。浮気相手のレンツォとのデートの日、彼女のロールス・ロイスをレンツォに運転させるのだが、レンツォは事故を起こしてしまう。

[ローマ] 高級娼婦のマーラ。隣り合うテラスで顔を合わせた神学生と親しくなるが、その神学生の祖母から「息子にはかかわらないで」と注意される。

それぞれの話は、それ一つでも楽しいコメディ。その話がそれぞれの都市の気質を表していると同時に、それぞれの女性の違いが都市の違いを象徴しているようでおもしろい。

夫と子どものために体を張って働くアデリーナ。カルミーネがダメになったとき、別の男性と子どもを作ろうとするが、「やっぱりカルミーネじゃなきゃいや」と、泣きながら刑務所行きを決意するナポレターナの情の深さ。気取ってロールス・ロイスを運転するアンナ。事故を起こしたレンツォは頼れないとわかれば、別の紳士に頼るアンナのしたたかさ。自分を注意した口うるさい隣人でも、その悩みを親身にきいてやり、自分の気持ちに嘘をついてでも、力になろうとするマーラの思いやり。

それに比べると、マストロヤンニ演じるそれぞれの男は、なんと情けないことか。


ロケ地 / ナポリ、ミラノ、ローマ

ナポリ

ミラノ … ドゥオーモ、スカラ座から中央駅を通りすぎて郊外へ

ローマ … テラスの向こうに見えるのはナヴォナ広場


製作 / 1963 イタリア・フランス
監督 /
ヴィットリオ・デ・シーカ

キャスト / [ナポリ] アデリーナ … ソフィア・ローレン
カルミーネ …
マルチェロ・マストロヤンニ
  [ミラノ] アンナ … ソフィア・ローレン
レンツォ … マルチェロ・マストロヤンニ
  [ローマ] マーラ … ソフィア・ローレン
ルスコーニ … マルチェロ・マストロヤンニ
媒体 / VIDEO,DVD 昨日・今日・明日 HDニューマスター版 [DVD]

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